2024/12/16
大停電後の世界では、自給自足的な暮らしや隣人同士の助け合いが、かつてないほど重要になっている。インターネットが使えず、情報を得るにも限りがあるなかで、身近なコミュニティが人々の生活を支える基盤となったのである。もちろん、加湿器の分野でもその傾向は顕著に表れている。
その代表的な取り組みが、“加湿シェア”の広がりだ。大規模なボイラーを地域で共同運用し、そこから街全体や共同スペースへ蒸気を配管して送るシステムは、大停電前の“地域暖房”や“地域冷房”のアナログ版ともいえる。かつては企業が一括管理していたエネルギーインフラを、今は住民全員の手で支える仕組みへと変えているのだ。たとえば、薪や木材を集める班、ボイラーを安全に運転管理する班、蒸気管の漏れや故障を点検する班など、役割分担を明確にして運営することで、地域ぐるみの参加意識を育みながら潤いを確保することができる。
また、図書館や町役場、あるいはシェアハウスなど、人が集まりやすい“公共空間”に加湿器を置く動きも広がっている。電気のない世界では、情報交換や災害時の避難などで、一度に大勢が集まる場所が極めて重要になる。そこを快適に保つために、人々が協力して加湿器を運用し、メンテナンスも定期的に行うのだ。加湿器そのものが“地域のシンボル”や“集合の目印”となり、人々の交流のハブになることすらある。
さらに、都市部では特定の施設に“ペダル式加湿ステーション”を設置しておき、市民が自由に訪れてはペダルを漕いで蒸気や水を得られるサービスも誕生している。電気が供給されない中でも、行列ができるほど人気を集める場所もあるという。ボトルやタンクを持参して加湿水を得ることができ、ついでに運動不足の解消にもなるという仕掛けは、住民同士が顔を合わせる機会を増やし、コミュニティの連帯感を高める役割を果たしている。
こうした“加湿シェア”の成功は、やがてエネルギーや食料、水など他のライフラインにも波及する兆しを見せている。一人ひとりが資源を独占するのではなく、共同で管理し、必要な人に必要なぶんだけ行き渡るよう工夫する――これこそ、大停電後の世界が導き出した新しいコミュニティの在り方なのかもしれない。加湿器は、その象徴的なアイテムとして、単なる湿度の供給だけでなく、“人と人との結束”というより大きな潤いを運ぶ存在へと変貌を遂げつつあるのだ。
電力が絶たれたことで、一度は崩壊の危機に瀕した文明。しかし、その逆境の中で人々は思いがけない活路を見出し、かつては影の薄かった技術や手法を組み合わせ、新たな生活様式を切り開いている。加湿器の進化は、その一端を鮮やかに示しているといえるだろう。電気が失われたからこそ、いま再び、人々の暮らしを支えるさまざまな可能性が花開いているのである。
編集後記
電力を失った世界という仮定のもとに、加湿器をテーマにさまざまなアイデアを探る本作。筆を進める中で感じたのは、アイデアの豊かさとともに、その裏側にある人々の強さでした。
あらためて実感したのが「人と人とのつながり」の重要性です。電力を失った世界では、個人が単独で生き抜くことは難しい。けれども、助け合いやシェアの精神があれば、不便な状況も少しずつ乗り越えていけるのではないか――そうした希望が随所に見え隠れしていました。書き手としても、このテーマを通じて「結局、技術や文明も人のためにある」という当たり前のことを、深く再確認させられました。
この企画に挑むことで、単なる空想の延長ではなく、現代に生きる私たちに通じる示唆を見つけられたことに感謝しています。加湿器という身近なテーマを通して、技術の進化だけでなく、私たちの暮らしの意味や価値観についても考えるきっかけとなれば嬉しいです。
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